無料で天橋立へ行けます

カード会社から届いた案内に、そんな一文がありました。

昼食付き、日帰り、参加費無料。
条件も特に難しくありません。

正直なところ、
「どうせ途中でお土産屋に寄るんだろうな」
その程度の想像はしていました。

私は元・旅行添乗員です。
日帰りバス旅行が、
観光だけで成り立っていないことは知っています。

それでも今回は、
“どこまでやるのか”を確かめたくて参加しました。


出発してすぐ、観光地ではなく宝石店へ

バスは予定通りに出発。
参加者は年配の方が中心で、
和やかな空気です。

ところが最初の目的地は、
天橋立ではありませんでした。

到着したのは、
日本最大級と説明される宝石販売店。

ここで約30分の説明会が行われる、
というアナウンスが入ります。

30分。
この時点では、
まだ誰も疑っていません。


宝石の話かと思ったら、健康の話が始まった

説明が始まって、
少し違和感を覚えました。

宝石の話が、ほとんど出てこないのです。

代わりに繰り返されるのは、
・遠赤外線
・低体温
・免疫力
・人生100年
・健康は未来への投資

要するに、
「年を取ると体温が下がる」
「体温が下がると不調が増える」
「だから身体を温めることが大切」
という話。

その流れで紹介されるのが、
30万円から、100万円を超えるネックレスです。


有名人の写真と「安心感」

説明の途中で、
芦田愛菜さんや浅田真央さんの写真が映し出されます。

「この方々も身につけています」

科学的なデータよりも、
“信じてもいい人が使っている”という事実。

ここで売られているのは、
宝石そのものではなく、
安心感なのだと分かります。


実際に購入する人がいました

驚いたのは、
実際に購入される方がいたことです。

しかも、一括ではなくローン。

90分の滞在予定は、
その契約手続きのために約2時間に延びました。

誰も文句は言いません。
その場の空気は、
「良い選択をした人を待つ」という空気です。


無料ツアーは、なぜ成立するのか

旅行業界では、
日帰りや一泊二日の格安ツアーを
「お金を使わせるための旅行」と
呼ぶことがありました。

観光より先に、
お土産屋や販売会場へ連れて行く。

開放感の中で財布の紐が緩む。
その売上が、
ツアー代金の一部を支える。

今回のツアーは、
それを極限まで突き詰めた形でした。


ようやく天橋立へ。売られない景色

宝石店を出て、
ようやく天橋立へ向かいます。

車窓から見える海と空は、
説明も、価格も、効能もありません。

ただ、そこにある風景。

不思議なことに、
その景色を見ていると、
さっきまでの緊張が少しずつ消えていきました。


無邪気に感心して帰れたら、楽なのかもしれない

私はふと思いました。

ああやって、
「いい話を聞いた」
「将来のためになる買い物をした」
そう思って帰れる人でいられたら、
それはそれで幸せなのかもしれない。

でも、
構造が見えてしまうと、
同じ景色は見えなくなる。


無料は「無料」だったのか

今回の旅行は、
確かにお金はかかりませんでした。

でも、
時間と注意と、
「信じる力」は差し出しています。

これから
無料ツアーや健康商法に触れる機会があったら、
一度だけ立ち止まって考えてみてください。

今、
何が売られているのか。

そして、
本当に欲しいのは何なのか。

売られない景色が、
ちゃんと世の中には残っています。