今回深掘りするのは
福岡伸一さんの「いのち動的平衡館」です。
このパビリオン、めちゃくちゃ深いです。
私、個人的にこれほど鳥肌が立ったパビリオンは他にないです。
まずパビリオンの構造ですが、実は柱が一本もないのです。
膜構造の建物で、外から見るとアメーバのようにも見える外観です。

入館しますと、真っ暗な部屋に案内されます。
本当に真っ暗で、足元が見えないくらいでした。
やがて見えてくる中央の装置。
直径約10メートル、高さ約3メートルの装置は「クラスラ」と呼ぶそうです。

そのクラスラを囲むようにぐるりと入場者は並びます。
ちょうど焚き火を囲むように見てもらいたいと福岡伸一教授は考えたそうです。
アナウンスとともに中央の装置に光が灯ります。
32万個のLEDライトのショーが始まります。
無数のLED照明の色は白色のみ。
とてもシンプルです。
映像の内容は単細胞が分裂し、生命が進化していく様子が描かれます。
クラゲになり、ウミガメになり、クジラになっていきます。
生物は陸に上がり、
馬になり、カンガルーになっていきます。
ゾウが走り、鳥が飛び、ついには人間が現れます。
全ての生命が一連の流れであるとアナウンスが流れ映像は終了します。
生物学者 福岡伸一教授の説明
福岡伸一教授が語る、“利他の進化”

スクリーンに現れたのは、生物学者 福岡伸一教授。
このパビリオンの総合プロデューサーであり、著書『生物と無生物のあいだ』で知られる第一人者です。
彼はこう語りかけてきました。
「38億年の生命の流れには、3つの“ダイナミック進化”がありました。」
🧬 1回目:原核細胞 → 真核細胞
大小の差が生じた時、相手を捕食せずに“共生”を選んだことが、新たな細胞構造を生んだ。
🔗 2回目:単細胞 → 多細胞生物
互いに分業・協力することで、複雑な生き物へと進化した。
🧑🤝🧑 3回目:無性 → 有性生殖
遺伝子の交換によって多様性が生まれ、新しい命が誕生した。
どれも、利己ではなく“利他”による進化だと彼は言います。
「勝ち抜くこと」ではなく、「支え合うこと」が進化をもたらしてきた――
なんとも現代人に必要なメッセージではないでしょうか。
福岡伸一氏の説明2
宇宙は無秩序に向かって動く「エントロピー増大の法則」があります。
しかし、生物は宇宙の法則には抗って、一定の秩序を保っているように見えます。
とても不思議な事です。
かつて、アンリ・ベルクソンは
「生命には物質の降る坂を登ろうとする努力がある。」と表現しました。
坂を転がり落ちるはずのものが坂を登り返す。
そんなことは本当に起こるのでしょうか?
解説
エントロピーという言葉自体は曖昧で、一言で説明することはできませんが、
エントロピー増大の法則はある平衡状態から別の平衡状態に映る時、
ほぼエネルギーが減少することはなく、ほとんど増大しているという法則のことです。
この増大したエネルギー分の為、
通常なら落ちるスピードは次第に早まるか、
もしくはそのまま落ち続けるはずです。
しかし、生物はこれに逆らって、登ろうとするというのです。
これをフランスの哲学者「アンリ・ベルクソン」は
「生命には物質の降る坂を登ろうとする努力がある。」と表現したというのです。

この哲学者アンリ・ベルクソンですが、
null²の解説で登場したニーチェとは真逆の哲学者ともいえる人物です。
ニーチェはキリスト教が民衆の逆らう気持ちを抑える教えになっており、
「今やキリスト教の教えは通用しない」というメッセージを
「神は死んだ」と表現したのに対し、
アンリ・ベルクソンは著書「創造的進化」で突然変異、「生の飛躍」を唱えました。
これはアインシュタインが発表した「相対性理論」の「神はサイコロを振らない」に対する
反論のような論文でした。
アンリ・ベルクソンは本来クールである哲学者とは違って、
とてもロマンチストな心の持ち主で、宗教や神秘の世界に肯定的だったのです。
ある意味、「才能のない奴の努力なんて無駄」というアインシュタイン、
「神頼みなんて無駄」というニーチェに対し、
「いつか報われる」と理論的に唱えたのがアンリ・ベルクソンだったのです。
そして、今回その「生命には物質の降る坂を登ろうとする努力がある。」という言葉を
分かりやすく映像で示してくれたのが福岡伸一教授なのです。
そうして、実際の映像を流しながら、
福岡伸一氏の説明は続きます。
福岡伸一氏の説明3
転がり落ち続ける円があるとします。
この円の一部を開いて、一方の端を壊し続け、一方の端を作り続けます。
そして、合成よりも分解を少しだけ多くすると、
このように輪っかは降り続けるはずの坂を登り返していくのです。
これが動的平衡です。
しかも、この輪っかは合成よりも分解が少しだけ多いので、
輪っかは徐々に短くなり、やがて消えてしまいます。
それはつまり、生命はいつか必ず死を迎えることを意味しています。
いのちは有限であるからこそ輝きます。
死は怖い事でもむなしい事でもありません。
死があるからこそ、新しい生があり、進化が生まれます。
死もまた、いのちをつなぐ利他なのです。
わたしたちのいのちは、
利他によって紡がれてきた38億年の生命の流れの中にあるのです。
解説
ここが私の鳥肌ポイントでした。
私たちはある程度の物質的成長を遂げると、自然に収束へと向かいます。
つまり老いて行くわけです。
例えば、この老いに逆らいながら頑張るという姿は、
この坂を登り返して行くことに似ていると言えます。
そこで色んな知恵が身に付いていきます。
しかしやがては死を迎えます。
時に虚しく感じることもありますが、
これこそ生のダイナミズムなのだと教えられているように思いました。
「これでいいのだ、、、」と、
ブッダはかく語ったと言います。
「人生は苦である」と、
生老病死、四苦八苦、これらの教えと相通ずるものがある「いのちの動的平衡」
素晴らしい教えに思わず合掌しました。
【まとめ】
今回の万博で、
物質的未来を示す展示物は数多くあります。
しかし、この2025年の万博、世界屈指の高齢者国家となった日本で、
「いのち輝く」をテーマに開催され、これほどまでにテーマに沿った内容は他に無かったと言えます。
いのちは破壊と再構築の連続。
それは利己ではなく、利他によって成り立ってきた。
そして、必ず死があるからこそ、
いのちは輝く